2014-09-07

review

【Book】「晴天の迷いクジラ」窪美澄 / 新潮社

デビュー作からとんでもない安定感をかもしだす窪美澄さん、読んだのはこれが三冊目。うつ発症、自殺未遂、心の崩壊等々、死んでしまいたいと思っている人たちの話。 神経質で過保護な母親を拒絶せざるを得なくなった女の子がリアルでその結末も良かった。悪意のない神経質を向けられた側の息苦しさと引き剥がしたいのに受け入れていい子でいなくてはいけない葛藤。わかるわー。 感動したとか救われたとか生きようと思ったとか、わかりやすい感情にはならなかったし何か解決したわけではないのに、とても清々しい気分になった。どんな展開に転がっても引き込んだまま離さない窪さんの魅力がつまった一冊でした。 一方的に感情を刺激しない、そっと寄り添ってくれる、すごく優しい本。



【Book】「残虐記」桐野夏生 / 新潮社

少し前に岡山で少女監禁事件があった時、「なぜ逃げなかったか」という意見が流れているのを知って唖然としました。映画のヒロインじゃあるまいし。そう思いながら久々に読み返しました。かつて新潟の監禁事件を題材にしたこの本は、文庫だと薄いのにこれでもかというくらい入り組んだ感情がつまっています。これを読んだあとに「なぜ逃げなかったの?」と少女に問うことができるのだろうか。ストックホルム症候群とまではいかなくても心理的に追い込まれた状態を上辺だけの正論で揶揄するのはずいぶんとまあ平和な脳だなと思いました。逃げられるのなら逃げたいにきまってる。 「残虐記」は監禁された少女がのちに小説家になり行方をくらます話。他人からしてみたらわずかな期間でも、魔の手にかけられた苦しみは見えない所で絶えず打ち寄せることを痛感します。他人の欲望によって、人生はあっさりと歪んでしまう恐怖。



【Book】「消された一家 北九州・連続監禁殺人事件」豊田正義 / 新潮社

ノンフィクション。事件については調べたことがあったけれど時系列で追っていくとちょっともう続きが読めない、と本を何度か閉じてしまうくらい壮絶な内容でした。当時報道規制がされたほどの酷い事件。鬼畜としかいえない犯人とマインドコントロールされていく人たちの心情。読んでいるときに「自称サイコパス」な遠隔操作犯がワイドショーを賑わしていましたが、本当のサイコパスは違うということがわかります。誰をどこまで信用して自分のことを話すか、その判断に自信がなくなる。逮捕されてようやく支配下から解放された内縁の妻の言葉はもの悲しいものがあった。



【Book / Movie】「私の男」桜庭一樹 / 文藝春秋 

第138回(平成19年度下半期) 直木賞受賞作品 知ってはいたもののテーマに惹かれなかったので見送っていた作品。なぜ読もうかと思ったかというと、映画化で養父役が浅野忠信さんだったからです。単純。 現在から過去へと逆行する構成で、読み終わったあとにその良さがわかりました。養父・淳悟と養女・花。どうしようもない共依存から抜けだそうとする花とただ朽ちていく淳悟。読み進めるほどに二人を引き離したくないという思いがなぜか湧いてしまうほど。ただ終わったときにあっけなさを感じました。いろいろ出来事あったわりには短かった。疑問があちこちに残ったままなのでやや消化不良。血の流れる事件が絡んでくるとファンタジーでは終われない、と思ってしまう。 近親相姦というと嫌悪するのが当然だと思いますが、遡っていく手法により、もうしょうがないよとなぜか認めたくなる桜庭さんの力。だって花には淳悟しかいなかったんだから。 公開終了間際だった映画に駆け込んでみたものの、浅野さん淳悟だったけれど、花が妙にエキセントリック。



【TV】きらきらひかる

1998年に放映、今でも色褪せない、一番好きなドラマです。遺体を解剖する監察医と刑事の女四人が食事するシーンが多く出てきますが、とにかく食べる飲む、言いたいこと言う。新人監察医役の深津絵里さんが「~なんじゃないでしょうか!!」と希望的観測ばかりいうタイプに、間髪入れずに助教授の杉先生役、鈴木京香さんが「そんなことあるわけないでしょう?あなた甘いのよ」と冷静に切り捨てるところが最高。 男勝りな役は色んな女優さんが演じているけれど、松雪泰子さんのこの女刑事にはかなわない。先輩監察医の小林聡美さんもかわいらしくて好き。柳葉敏郎さんの眼鏡の上から覗き込む仕草とか、それから杉先生の妹役で篠原涼子さんも出演しています。札束数えながら首回すシーンの表情が何度見ても良い。 物語も面白いんだけど、ちょくちょく専門用語を説明してくれるアニメーションが出てくるのが事件もの好きにとってはたまらないツボです。覚えても役に立たないんですけどね。 最終話で杉先生がいつも持ち歩いていた歯の全貌が明らかになるんですが、成分から微量のストロンチウム90が出てくる。一度はえた歯の成分は変わらないので、歯が作られるときになんらかの影響を受けて歯の成分にまざるということ。 ドラマでは杉先生の妹がチェルノブイリ事故後にウクライナで出産したという事実がわかり歯の持ち主が確定しています。 原発問題がリアルになっている今、すごく考えさせられるテーマでした。 ドラマとして完成度ものすごく高いので、これをこえるドラマにはなかなか出会えないんじゃないかなと思っています。



【Movie】THE ICEMAN 氷の処刑人 実在した殺し屋リチャード・ククリンスキーの姿を描いた実録クライムサスペンス。20年間で100人以上も殺害した二重生活、あっさり人を殺す冷酷な表情と徐々に崩れていく感情の変化と環境に引き込まれました。マイケル・シャノンの目つきと古いアメ車が印象的。




夏の終わり、そろそろ。